こちらに来てからしばしば感じていたことの一つに，ファーストネームが同じフィンランド人が結構多いという疑問がありました．例えば，Timoは私が知っている中にも3人もいますし，Jaanaも３人もいます．テレビなどを見ていても，よく同じファーストネームの人が出てきます．何か名前の由来に特別なものがあるに違いないと思い，フィンランド人にファーストネームの意味を聞いたりしたのですが，答えは決まって「特別な意味は無い」というものばかりでした．先月も友人に子供が生まれ，その名前がMarkusだと聞かされたときに，どうやって名前を決めたのだと聞いてみると「顔がMarkusのようだったから」と，答えにならない答えが聞けるだけでした．

最近，name dayの存在を知りました．フィンランド人のファーストネームにはそれぞれ固有のname dayがあり，例えばTimoは5月9日，Jaanaは8月15日といった具合に決められています．フィンランドのカレンダーには，それぞれの日のファーストネームが記入されており，今日は誰のname dayかわかるようになっています．これは誕生日とは関係なく，冬に生まれてもname dayは夏ということもあります．どのようにそれぞれのname dayが決められてかは，私が聞いたどのフィンランド人も知りませんでした．ほとんどが日付と名前は関係ないものらしいのですが，若干，例外もあり，夏至祭にあたる6月24日は太陽神(だと思います) であるJohannesのname dayになっています．あと，日本で言う元旦(1月1日)やクリスマス(12月25日)はどのファーストネームも割り当てられていません．

ここまで書くと，フィンランド人のファーストネームはたったの363(=365-2)しか無いのかと思われるかもしれませんが，同じname dayを持つファーストネームも存在します．例えば，1月3日はElmoとElmerのname dayで，同じname dayを持つファーストネームは何がしかの関係にあるそうです．このように重複もあるので363個というわけでは無いのですが，それでも数えてみたところ700から800くらいしかなさそうです．何を数えたかというと，カレンダーの最後にはname dayの一覧表が付いており，そこにほとんど全てのフィンランド人のファーストネームが載っています．便利なものです．日本人の名前をリストにしようとすると膨大なものになりそうですし，ほとんど意味も無いかもしれません．あるとすれば，「赤ちゃん名づけ辞典」の参考になる程度でしょうか．

フィンランド人のファーストネームにはそれといった特別の意味は無いと書きましたが，それでも名前の由来に関する辞典は存在します．しかも，非常に高い確率でフィンランド人は持っているようです．由来といっても，ほとんどが聖書に出てくる聖者の名前であるとか，カレワラ(フィンランドの民族叙事詩)に出てくる英雄・聖者の名前から来たものだそうです．若干，フィンランド外部から入ってきたものもあるそうで，そのあたりの内容が記述されているのだそうです．かといって，フィンランド人が子供の名前を考えるときにその辞典を利用するかというと，そうでもなさそうで，「顔がそのようだから」といったインスピレーションが重要だ，ということです．

最近では，これまでに無い新しいファーストネームを付ける若い親も出てきたそうです．日本でもいったいどうやって読むのだろうというような名前も最近では珍しくありませんが，フィンランドでもそれに似た現象が生じているようです．その場合，その子のname dayが無いわけですが，ある程度の数をなしてくるとname dayリストが更新され，最新版がカレンダーに載るようになるらしいです．どこの誰がname dayの決定権を持っているかというと，それも誰も良く知りませんでした．ただ，カレンダーを作成する権利を持っているのは，なんとヘルシンキ大学なのだそうです．かつてフィンランド国内で天文学に詳しい人間がいるのはヘルシンキ大学に限られていたという経緯からとのことです．なるほど，カレンダーを見るとヘルシンキ大学のコピーライトマークがしっかり入っていました．したがって，name dayの決定権ももしかするとヘルシンキ大学にあるのかもしれません．大学の権威とは，学問と生活を結び付けるようにあるべきであり，本来こういうものなのかとも思った次第です．

補足ですが，フィンランドでもファーストネームの流行というものがあるらしく，今年はMika Hakkinenが優勝したり，ラリードライバーの誰か(申し訳ございませんが，忘れました)が優勝したりしたので，Mikaという名前が流行る可能性も十分あるらしいです．ちなみに，Mika（ミカ)は男の子の名前です．