アパートに暮らすようになってから,ずいぶんと友人が増えました.主に同じ年頃の子供を持つ家族が多いのですが,そのおかげで子供にも友人ができ,また我々も毎日の会話が楽しみになってきました.面白いことに,ここでは日本で言う井戸端会議にはお父さん達も積極的に参加します.私も積極的に参加したかいがあって,色々とフィンランドについて知る機会も増え,ここでの生活を存分に楽しめるようになりました.そうした仲の良い家族のなかに,ミッケリから来たJa:rvinen家があります.子供は2人で上の子(Kaarina)が我々の息子と同じ歳で,息子のガールフレンドの一人です.下の子(Kasper)はちょうど一歳になったばかりで,かわいい盛りです.お父さん(Karri)は以前,近所のbunkerを案内してもらった人です.お母さん(Salla)は今,妊娠8ヶ月という身重ですが,それでも毎日子供を連れて遊びに外に出てきます.
さて,Karriは趣味が釣りとハンティングという,まさにアウトドア志向の若者(26歳)で,私にいつもフィンランドの匂いのする楽しい話をしてくれます.夏がいよいよ本番になるにつれ,彼の話は彼の両親が持っているsummer cottage(kesa:mo:kki)についての話題が多くなりました.私もクルーズなどで船の上から見る機会はあってもなかなか中に入ることはできず,彼の話を楽しく聞いていました.あるとき,興味があればぜひ今度一緒にサマーコテージに行かないか,という話になり,私は即座にその話にのりました.両家族の予定などを調整した結果,いよいよ7月24日から2泊3日にそのサマーコテージに行けることになったわけです.
KarriもSallaもMikkeli出身で,彼らの両親もそこに住んでいます.MikkeliはここLappeenrantaから100km,車で1時間30分のところにあります.Karriのお父さんとSarraのお母さんは同じ小学校の先生をしている同僚という関係で,両家族ともとても親しくしているとのことでした.おかげで,今回の滞在中に,両家を訪れる機会も得ることができました.
さて,サマーコテージは湖畔に立てられるのが普通で,我々の訪れたサマーコテージも美しい湖のほとりにありました.湖といっても,複雑な地形のため,どこからどこまでが湖で,どこが島でどこが陸地なのか,ちょっと見ただけではわかりませんが,とにかく,水辺のほとりにあり,サウナの後で湖に飛び込む施設は完璧に整っていました(もちろん水温は非常に低い
! ).船もあり,散歩代わりに湖に出かけることもできますし,もちろん釣りもできます.「本来のkesa:mo:kki」は電気も水道も無いのが普通ですが,ここにはありがたいことに電気だけはありました.おかげで冷蔵庫を使うことができ,冷たいビールを飲めたのは何よりでした.ただ,水道な無いため,近くの井戸水から飲料水を汲んでくる必要があり,しかもその水は透明ではなく,茶色をしています.もちろん飲めますが,気になる人は気になるでしょう.とにかく,あまり便利さを追求することはフィンランド人として正しくない行いと感じているのか,あるいは,「伝統的な」サマーコテージでの生活を守ることに誇りを感じているのか,最低限の文明の利器しかサマーコテージには持ち込まれません.
さて,サマーコテージでの生活ですが,何よりものんびりすることが第一だそうです.そうでしょう.のんびりする=何もしないことは,よくよく考えてみるとなかなかできそうでできないことだからです.なによりも,周りを湖に囲まれているため,音響効果は抜群で(「水上の音楽」をご存知でしょうか?水のおかげで音は遠くまで届きます)普段聞けないような音が聞こえてきます.遠くで聞こえる鳥の声は非常に神秘的です.白鳥もこの湖に住んでいるそうで(シベリウスの「トゥオネラの白鳥」をご存知でしょうか?),夕方遅く,あるいは明け方に湖上空をつがいの白鳥が飛んでいきます.そんな音を聞いていると,のんびりするという意味もわかるような気がしてきます.子供たちはあちらこちらにあるブルーベリーをつまんでは食べています.ここではブルーベリーが雑草のように生えています.
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また,今回のサマーコテージの滞在で楽しみにしていたことの一つに釣りがあります.釣りの道具は常備してあって,我々も早速サマーコテージの目の前で試してみることにしました.えさはミミズです.最初はおそらく何も釣れないだろう,と思っていたのですが,ほとんど入れ食い状態です.釣れた魚は何というのか分かりませんが,食べるには小さすぎました.それでも面白いように釣れるのには驚きました.
もちろん,船で沖に出てルアー釣りをすれば大きいものが釣れることがあります.我々もチャレンジしましたが,ラッキーにも1時間30分ほどの間に,40cmほどのwhite
fish (lavaret:サケ科コクチマスの一種) 1匹と,30cmほどのpike (カワカマスの一種)
2匹を釣り上げることができました.ルアー釣りといっても,ルアーを投げ入れてすぐにリールで戻すタイプの釣りではなくて,ルアーを投げ入れて後は船でトローリングする,いたってのんびりした釣りでした.湖面はまったく穏やかで,魚が釣れなくてもそれはそれでのんびりした散歩した気分になるでしょう.もちろん釣れれば喜びも大きいですが.
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このサマーコテージの持ち主であるKarriのご両親,特にお父さんは典型的なフィンランド人で,なんでもご自分で作るのが好きだそうです.ついには,スモークサウナを自分で作ってしまったほどです.今回の滞在の目的の一つが,このスモークサウナを体験することでした.スモークサウナというのは,通常のサウナと違って煙突がなく,部屋に煙がこもることからその名前がついています.使用する木も特別なものらしく,良い匂いのするものが使われます.極めて伝統的なサウナなのですが,なにしろ煙突が無いことからへたをすると炎上してしまうことがあるため,住居の近くには建設できないことになっているのと,温度の調節,木材の調達などが大変なため,いまではほとんどフィンランドに残っていないそうです.お父さんはこれを自分で建ててしまいました.概観は塗装せず,木目そのままにしています.また内部も全てが木で出来ています.「これこそがサウナだ」と言わんばかりに,私に詳細に説明していただきました.スモークサウナを体験できた日本人は非常に少ないのではないか,とお父さんに言ったら,嬉しそうに「君たちは幸運だ」とおっしゃっていました.
また,Karriのお母さんはカンテレというカレリア地方の伝統的な楽器(写真右端)を演奏することができます.琴と原理は同じで,ギターと同じスチール弦を使います.音はギターとハープを合せたようなやわらかいものでした.お母さんが引くカンテレを聞きながら,カレリアパイを食べ,まさに至福の時を過ごすことができました.お母さんが大切にしているカンテレに子供たちが手を伸ばすのには,こちらも冷や汗ものでしたが.
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とにかく,今回のサマーコテージ滞在は我々家族にとって最高の体験でした.「自然」というものに対する見方の違い,楽しみ方等,多くを学ばせていただきました.「なぜ日本人はそれほど働くのだ」とKarriのお父さんがおっしゃったのが印象的でしたが,やはり良く言われているように我々日本人は遊び方をフィンランド人ほどには知らないということに原因があるように思いました.日本にも美しい自然は残っていますが,時間にゆとりが無い分,便利さ(交通,店)
を追求し,結局は自然とは呼べない状況を作ってしまっているようにも思います.水道,電気が無いようなサマーコテージを日本で作るようなことがあるでしょうか?あるいは,作ったとしても誰かがそれを利用するでしょうか?フィンランド人はそうした不便さをむしろ誇りに思っているように見えました.日本ではどうなのでしょうか?「**駅から何分」というような看板をよく見かけますね.このサマーコテージも比較的都市部から近いですが,それでも未舗装の道路を15kmは走らなければなりません.時間にゆとりができれば,すこしづつでもそうした状況は改善されるのでは,と感じました.ちなみに,Karriのお父さんの1週間の労働時間は25時間だそうです.私が大体60時間くらいだと言うと,信じられないような顔をされていました.25時間は無理だとしても,時間の使い方はもう少しフィンランド人から学べそうな気がします.それでも,子供たちが裸足で走り回り,ブルーベリーをつまんで食べている姿を見ていると,小さい頃からこのような生活をしていないと,なかなかそうした考えにはなれないのかもしれない,とふと思いました.私が仕事から家に戻ってすることといえば,ビール片手に野球観戦(夏場)ですから,そこのところを変えなくてはならないのでしょうね.