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32. Christmas in Finland

最近では,12月になると日本にも「本場の」サンタクロース(ヨールプッキ)がやってきて,各地のイベントに出演するなど,クリスマスが存分に演出されるようになりました.私が子供の頃にも,クリスマスイブの夜にサンタクロースはとなかいの引くそりに乗ってやってきて,煙突から家に入り,寝ている良い子の枕元にそっとプレゼントと置いてくれることになっていましたから,最近といってももう随分前からクリスマスのイベントは日本に輸入されていたのでしょう.ここフィンランドは「本場」というプライドもあり,そしてもちろん伝統としてクリスマスはしっかりと人々の生活に関っています.

12月に入るとテレビにはクリスマスを意図したコマーシャルが流れるようになります.街のイルミネーションも点燈されます.街のスーパーにはサンタクロースがやってきて,子供たちにキャンディーを配ります.サンタクロースのお決まりのセリフは「良い子はおるかな?」だそうです.息子も何度かサンタクロースからキャンディーをもらいました.この頃から親は子供に「トントゥーが見ているから,良い子にしていないとプレゼントをくれないよ」と,子供の悪行をたしなめます.トントゥーというのは,私もこちらに来て始めて知ったのですが,サンタクロースのいわゆるアシスタントで,忙しいサンタクロースの手助けをする人達のことだそうです.彼らは赤色の三角帽子をかぶっています.ラップランドにはトントゥー養成所があるそうで,そこを卒業すればトントゥーとしてサンタクロースに仕えることができるのだそうです.そもそも,サンタクロースはフィンランドの北東部の森に住んでいて,シーズンになるとロバニエミにあるオフィスで人々との交流を楽しむのだそうです.12月初旬にテレビのニュースにサンタクロースが登場し,インタビューを受けていました.画面に出た字幕にきちんとヨールプッキという職業であることが出ていました.

クリスマスイブの正午を知らせるトゥルク大聖堂の鐘の音を合図に,トゥルク市長がクリスマス宣言を読み上げます.これはテレビで中継されました.日本の「ゆく年来る年」の除夜の鐘と同じ様です.これを家族揃って聞いて,そしてクリスマスサウナに入り,サンタクロースが来るのを待つ,というのが典型的なフィンランドでのクリスマスの過ごし方なのだそうです.我々もテレビでクリスマス宣言を見て,アパートのクリスマスサウナに入りました.また,夕方に墓地に赴き,墓碑の前にキャンドルを飾るのもクリスマスイブの習慣の一つだそうです.我々も雪が舞うなか近くの墓地に行ってみましたが,なかなかの風情でした.特に知り合いの墓がない人々のために墓地中央にはキャンドル置き場が作られており,我々はそこにキャンドルを置いてきました.日本にはお盆という行事がありますが,見た目はそれに酷似しています.ただ,日本のように祖先の霊が地上に帰ってくることはないそうです.天国の方がよっぽど良いから,というのがその理由です.
 
 
トゥルク市長によるクリスマス宣言
冬戦争,継続戦争の犠牲者の墓
墓地中央にある「共同キャンドル置き場」
既に多くのキャンドルが供えられていた
 

クリスマスにはクリスマスツリーを飾ります.フィンランドではほとんどの家庭が本物のもみの木を使います.もみの木はクリスマスが近づくと街のあちらこちらで売られるようになります.我々も日本に帰ると本物の木を使うのはほぼ絶望的なので,今年くらいはと,木を手に入れました.2m30cmほどの木が1200円くらいで手に入ります.最近でこそ日本では一般的なイミテーションのツリーを見かけるようになったそうですが,それでもたいていは本物のもみの木を使うそうです.見かけももちろんですが,木の匂いがやはり本物でなければ味わえないからだそうです.飾り(オーナメント)も目移りするほどの種類と数が売られています.しかし,それらのほとんどがプラスティックなどの材料で作られており,古くはそのような飾りは使っていなかったはずです.伝統的な飾りが何か聞いてみたところ,ガラス玉,わらで作った星や人形,ジンジャービスケットなどがいわゆる古くからある飾りなのだそうです.本物のろうそくも今では電球に取って代わられつつありますが,それでも「伝統派」の家庭では頑なにろうそくを使います.日本の正月飾りは見るからに「伝統的」ですが,これも徐々にプラスティック製のわら,もち等々に代わってしまうのでしょうか.それだとあまりに味気ないようにも思います(すでにその兆候も見えるようにも思いますが).街に氾濫するオーナメントの数々を見ていて,ふとそんなことを思いました.
 
 

我が家のクリスマスツリー
残念ながら日本の我が家には入りそうにありません
わらのトントゥー人形やジンジャービスケットが
飾りとして使われます
教授の家のクリスマスツリーには
本物のキャンドルが飾られます
キャンドルの明かりで本を読むと
なんとなくクリスマスっぽいです
 

クリスマスの楽しみとして欠かせないのがクリスマス料理です.日本ではクリスマスケーキが有名ですが,こちらではクリスマスハム,クリスマスタルト,クリスマスパンなどが主なクリスマス料理です.メインとも言うべきクリスマスハムは,大きいもので10kgのポーク肉の固まりに塩味を付け,適当な(本当は適当では無いですが)ハーブを付けてオーブンで一晩かけて焼いたものです.我が家でも2kgの肉を買って挑戦してみましたが,なかなかの出来栄えに喜んだ次第です.
 
 

クリスマスの伝統的な飾り:山羊(らしい)
(Joulupukkiのpukkiは山羊の意味)
我が家のクリスマス料理
中央がクリスマスタルト
調理中のクリスマスハム
上のつきささっているのは温度計
ジンジャービスケットで作った家
ムーミンクッキーはご愛敬
 

クリスマス週間はだいたい1月6日頃まで続くのだそうです.「だいたい」というのは家庭によって少々ずれることがあるから,という意味で,クリスマスツリーを飾っている間がクリスマス週間ということになります.日本では直後の新年イベントの方が大きいため,クリスマスはあっという間に終わりますが,こちらはしばらくクリスマス気分が続きます.

ちなみに,我が家にもサンタクロースがやってきました.が,彼は非常に忙しいため,息子は彼の姿を目にすることができませんでした.代わりにプレゼントが玄関に置かれていました.友人に聞いてみると,どの家庭もほぼ似たような状況だったようです.田舎で過ごしたある友人一家のところには,サンタクロースに頼まれた代理サンタクロースがプレゼントを届けに来てくれたようです.子供たちが(代理)サンタクロースを迎え,歌を歌って歓迎し,プレゼントをもらった後,すぐさまサンタクロースは次の家に行ったそうです. 12月に入ると,新聞の求人広告の欄に「代理サンタクロースします」といった類の記事が出るようになりますが,近年のサンタクロースのあまりの激務を象徴しているようです.
 

12/28/1998

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