視覚脳波

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視覚に関する基礎科学(脳の仕組み)から応用技術(脳を活かす)へ – 視覚に関する脳波を研究する

近年の脳波研究の進歩はめざましく,神経系の機能が解明されつつあります.しかし,脳の仕組みはいまだ未開拓な部分が多いことも事実です.そこでこのプロジェクトでは,視覚に関する脳の働き,仕組みを解明することを目的としています.またそれだけにとどまらず,脳の仕組みから,脳と社会をつなぐ,脳を活かす技術であるBCI (Brain-Computer Interface)への応用にも取り組んでいます.

脳波

脳波 (Electroencephalogram: EEG) とは,脳の電気活動を頭皮上の電極によって記録したものです.脳波は数十マイクロボルトの微弱な電気信号であり,それを脳波計によって増幅することで観察することができます.脳波のうち,外的刺激など特定の事象に同期して生ずるものは事象関連電位 (Event-Related Potentials: ERP) と呼ばれ,ヒトの認知・心理活動に関わる脳メカニズムを理解する手がかりとして注目されています.本研究室では視覚課題を遂行しているときの脳波を計測し,ERPのピーク (ERP成分) が現れるタイミングや振幅の大きさ,脳部位毎の活動量などを解析することで脳の視覚情報処理システムの解明を目指しています.

オドボール課題時の脳活動を脳波計EGIネットステーションシステム300で計測・解析した結果

瞳孔

本研究室では脳波測定だけでなく,眼球運動測定による瞳孔径の解析も行っています.瞳孔は一般的に「黒目」と呼ばれており,ヒトの目の場合,瞳孔の大きさは2~8mmの間で変化します.私たちの瞳孔は暗い環境で大きくなり(散大),明るい環境では小さくなる(収縮)ことは知られていますが,他にも認知負荷,感情状態,物への興味,驚きなど様々な心理状態を反映することも知られています.本研究室では脳波測定と同様に様々な実験遂行中の眼球運動を測定し,瞳孔径の情報からヒトのあらゆる認知メカニズムを調査しています.

オドボール課題時の脳活動を脳波計EGIネットステーションシステム300で計測・解析した結果

「顔」に関する研究

私たちの記憶は曖昧であり,不正確な記憶は様々な影響をもたらすことがあります.例えば,被害者や目撃者からの情報をもとに,容疑者の合成写真を作り出す「モンタージュ写真」があります.これは目撃者の主観的な応答に依存しており,容疑者の顔が正確に割り出されない可能性があります.このことから,ヒトの主観的な応答に依存しない記憶検出手法の必要性は高いといえます.そこで本研究では,キメラ顔刺激を用いて,意図的に曖昧な記憶が発生しやすい状況を作り,脳波計測から顔想起プロセスの際に発生する曖昧な記憶のメカニズムについて調査を行っています.



「情動」に関する研究

情動(Emotion)が人間性を形成する上で重要な役割を果たしていることは,哲学などの分野で古くから認識されていました.ヒトは,視覚や聴覚といった,あらゆる感覚から外部刺激を受容することで,様々な情動が喚起されます.これまでの認知神経学における情動研究では,脳波やfMRIなどの生体信号計測手法の発展に伴って,情動反応とあらゆる生理反応との関連が示唆されてきました.これらの知見は,ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)におけるヒトの感情推定を行う上で重要であり,工学のあらゆる分野においても感情推定を工学的応用に組み込もうとする試みが増えてきています.本研究室では,生体信号を用いてヒトの情動の経時的変化を抽出することを最終目標として,情動喚起時の脳波やfNIRS,眼球運動といった生体信号を計測し,様々な情動状態とそのときの生理反応との関連を調査するとともに,機械学習を用いた感情推定を試みる研究を行っています.



「時間知覚」に関する研究

私たちは同じ時間であっても短く感じたり,長く感じることがあります.例えば,ゲームをしていて熱中しているときは短く感じ,退屈な会議では長く感じたといったことは誰もが一度は経験があるのではないでしょうか.この例のように私たちの時間の感覚は時計のように一定ではないことがわかります.このような時間感覚の生成メカニズムについては諸説ありますが,未だに明らかになっていません.本研究室では,数秒以内の短い時間知覚について,行動指標と眼球運動計測データを関連づけることにより解明を目指しています.


「錯視」に関する研究

視覚において,見ているものが実際とは異なって見えてしまう知覚を錯視(optical illusion)といいます.目ではなく,脳で生じているいわば “脳のエラー” であるこの現象は,我々の脳処理メカニズムを解明するために非常に有用です.例えば,図左の錯視はグレア錯視と呼ばれています.中央から周辺部分に輝度のグラデーションがあることで,その中央部分が輝いて見える錯視です.興味深いことに,この錯視を見たときには,グラデーションを反転したオブジェクト(図右)と比較して,瞳孔がより小さくなることが報告されています.これら2つのオブジェクトはまったく同様のグラデーションを持つ要素で構成されています.したがって,ヒトが光の放出を模擬するようなグラデーションを持つオブジェクトを見たときのみ,記憶や経験といった脳全体のネットワークが働いた結果,目を守るための機能として縮瞳が引き起こされた,ということがいえるでしょう.このように私たちの研究室では,錯視と脳波や瞳孔反応といった生理反応を用いて脳機能を明らかにする研究が行われています.


過去の研究一覧

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